増える「to not 動詞」という言い方(大坂なおみ選手の "It's OK to Not Be OK.") [文法・語法]
久しぶりに書店の洋書コーナーに立ち寄ったら、大坂なおみ選手をカバーにした TIME 誌の7月19日号が目にとまった。そこに 'It’s O.K. to Not Be O.K.' とあるのを見て、「おっ」と思った。
学校で習った不定詞の説明だと、"not to 動詞" としないとまずいはずだが、実際には、"to not 動詞" という言い方を見かけるようになっている。
引用の形とはいえ、有名な雑誌の表紙にも大きく出るほどなのか、と思ったのだ。
帰宅途中だったのでその場で「タイム」の該当記事を読むことはせず、家に帰ってからウェブ版を見た。
大坂選手本人が書いたもので、今月8日付とあるのでウェブには少し前から掲載されていたことになる。アスリートのメンタルヘルスについて書いたもので、「精神的にOKではない状態があることは全然問題ではなく、OKなのだ」という理解が広まるよう訴えている。
- I feel uncomfortable being the spokesperson or face of athlete mental health as it’s still so new to me and I don’t have all the answers. I do hope that people can relate and understand it’s O.K. to not be O.K., and it’s O.K. to talk about it. There are people who can help, and there is usually light at the end of any tunnel.
("Naomi Osaka: 'It's O.K. Not to Be O.K.'" TIME, July 8, 2021)
おもしろいことに、よく見るとウェブ版記事のタイトルは
- It's O.K. Not to Be O.K.
と、伝統的な "not to" になっていることに気づいた。本文と表紙は本人の言葉通り "to not" としているのに、記事のタイトルの方は違う形にしたのは、編集者がこちらの方が規範的だと考えたのだろうか。
私も、学校の英文法で習った際に "not to..." と念仏のように覚えたせいか、"to not..." はどうも座りが悪く感じられる。
この言い方によく触れるようになっていると感じているものの、一方で私はそれほど熱心に注意を払って来なかったようで、自分がつくっている英語学習ノート(テキストファイル)を検索すると、"to not" の実例でメモしていたのは次のひとつだけだった。
- One of my goals during this last trip was to make the case, through the press accompanying me, for a gradual drawdown of troops, so as to not jeopardize the troops’ hard-won gains.
(Robert Gates: Duty)
"to not" をにらんでいるうちに、これは以前取り上げたことがある(→こちら)「分離不定詞(分割不定詞)」(split infinitive) の一種と言えるのではないか、と思いついた。
to の直後に動詞が来るのが原則だが、間に副詞が割って入るのが分離不定詞だ。あらためて辞書を見ると、意識したことがなかったが not は確かに副詞である。
さらに "not to" と "to not" をかけあわせてウェブ検索をして調べてみると、間違いないようで、後者は split infinitive だ、というネイティブスピーカーの説明がいろいろ見つかった。
分離不定詞をめぐっては、「誤りだ」「望ましくない」という伝統的な考えがある一方で、「そうした方が意味がより正確に伝わる」と容認する主張があるのは、以前取り上げた時に書いた通りだ。
なぜ分離不定詞を使った方がより正確になるのか、という容認論は、長くなるのでウェブなどの説明を探して確かめていただきたいが、検索で見つけた記述の中で、"to not" について興味深いと思ったものを以下引用しよう。
- Be aware that putting "not" or another adverb between "to" and its verb adds some emphasis to that adverb. For example, in the sentence "They decided not to stay another night" the phrase "they decided" is the most important information, but the sentence "They decided to not stay another night" tells us that maybe they decided to stay another night before, but now it is important that they will not stay.
https://www.learnersdictionary.com/qa/Split-Infinitives
私が持っている文法書の中では、「表現のための実践ロイヤル英文法」(マーク・ピーターセン他・著)や「英文法総覧」(安井稔・著)、また「現代英文法講義」(安藤貞雄・著)に、分離不定詞が必要な場合についての記述があった。
ところで、大坂選手は「タイム」への寄稿の中で、記者会見が苦手だとあらためて述べるとともに、
- Believe it or not, I am naturally introverted and do not court the spotlight.
と書いている。先日は「うつ状態」であるとも明らかにした。しかし一方で、雑誌で水着姿を披露するなど相反するような言動も見せて批判が出るなど、一部で「お騒がせ」状態となっているようだ。
最後に余談だが、今回の大坂選手の言葉を調べていて、"It's OK to Not Be OK" という韓国の人気ドラマがあることを知った。ここでも "not to" ではなく、"to not" なのだな。日本語の題は「サイコだけど大丈夫」だそうだ。
過去の関連記事:
・大坂なおみ選手の「ごめんなさい」は本当に誤訳なのか?
・stratospheric rise「一大飛躍」「大ブレーク」(大坂なおみが”うつ”で大会棄権)
・オバマ宣誓と分離不定詞と「スター・トレック」
にほんブログ村←参加中です
学校で習った不定詞の説明だと、"not to 動詞" としないとまずいはずだが、実際には、"to not 動詞" という言い方を見かけるようになっている。
引用の形とはいえ、有名な雑誌の表紙にも大きく出るほどなのか、と思ったのだ。
帰宅途中だったのでその場で「タイム」の該当記事を読むことはせず、家に帰ってからウェブ版を見た。
大坂選手本人が書いたもので、今月8日付とあるのでウェブには少し前から掲載されていたことになる。アスリートのメンタルヘルスについて書いたもので、「精神的にOKではない状態があることは全然問題ではなく、OKなのだ」という理解が広まるよう訴えている。
- I feel uncomfortable being the spokesperson or face of athlete mental health as it’s still so new to me and I don’t have all the answers. I do hope that people can relate and understand it’s O.K. to not be O.K., and it’s O.K. to talk about it. There are people who can help, and there is usually light at the end of any tunnel.
("Naomi Osaka: 'It's O.K. Not to Be O.K.'" TIME, July 8, 2021)
おもしろいことに、よく見るとウェブ版記事のタイトルは
- It's O.K. Not to Be O.K.
と、伝統的な "not to" になっていることに気づいた。本文と表紙は本人の言葉通り "to not" としているのに、記事のタイトルの方は違う形にしたのは、編集者がこちらの方が規範的だと考えたのだろうか。
私も、学校の英文法で習った際に "not to..." と念仏のように覚えたせいか、"to not..." はどうも座りが悪く感じられる。
この言い方によく触れるようになっていると感じているものの、一方で私はそれほど熱心に注意を払って来なかったようで、自分がつくっている英語学習ノート(テキストファイル)を検索すると、"to not" の実例でメモしていたのは次のひとつだけだった。
- One of my goals during this last trip was to make the case, through the press accompanying me, for a gradual drawdown of troops, so as to not jeopardize the troops’ hard-won gains.
(Robert Gates: Duty)
"to not" をにらんでいるうちに、これは以前取り上げたことがある(→こちら)「分離不定詞(分割不定詞)」(split infinitive) の一種と言えるのではないか、と思いついた。
to の直後に動詞が来るのが原則だが、間に副詞が割って入るのが分離不定詞だ。あらためて辞書を見ると、意識したことがなかったが not は確かに副詞である。
さらに "not to" と "to not" をかけあわせてウェブ検索をして調べてみると、間違いないようで、後者は split infinitive だ、というネイティブスピーカーの説明がいろいろ見つかった。
分離不定詞をめぐっては、「誤りだ」「望ましくない」という伝統的な考えがある一方で、「そうした方が意味がより正確に伝わる」と容認する主張があるのは、以前取り上げた時に書いた通りだ。
なぜ分離不定詞を使った方がより正確になるのか、という容認論は、長くなるのでウェブなどの説明を探して確かめていただきたいが、検索で見つけた記述の中で、"to not" について興味深いと思ったものを以下引用しよう。
- Be aware that putting "not" or another adverb between "to" and its verb adds some emphasis to that adverb. For example, in the sentence "They decided not to stay another night" the phrase "they decided" is the most important information, but the sentence "They decided to not stay another night" tells us that maybe they decided to stay another night before, but now it is important that they will not stay.
https://www.learnersdictionary.com/qa/Split-Infinitives
私が持っている文法書の中では、「表現のための実践ロイヤル英文法」(マーク・ピーターセン他・著)や「英文法総覧」(安井稔・著)、また「現代英文法講義」(安藤貞雄・著)に、分離不定詞が必要な場合についての記述があった。
ところで、大坂選手は「タイム」への寄稿の中で、記者会見が苦手だとあらためて述べるとともに、
- Believe it or not, I am naturally introverted and do not court the spotlight.
と書いている。先日は「うつ状態」であるとも明らかにした。しかし一方で、雑誌で水着姿を披露するなど相反するような言動も見せて批判が出るなど、一部で「お騒がせ」状態となっているようだ。
最後に余談だが、今回の大坂選手の言葉を調べていて、"It's OK to Not Be OK" という韓国の人気ドラマがあることを知った。ここでも "not to" ではなく、"to not" なのだな。日本語の題は「サイコだけど大丈夫」だそうだ。
過去の関連記事:
・大坂なおみ選手の「ごめんなさい」は本当に誤訳なのか?
・stratospheric rise「一大飛躍」「大ブレーク」(大坂なおみが”うつ”で大会棄権)
・オバマ宣誓と分離不定詞と「スター・トレック」
にほんブログ村←参加中です
韓国ドラマdvd キム・スヒョン DVD サイコだけど大丈夫 DVD It`s Okay to Not Be Okay DVD 全16話を収録した9枚組 dvd
- 出版社/メーカー: ヴィペット
- メディア: その他
にほんブログ村← 参加中です
コメント 0