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on the sly 「ひそかに」「こっそりと」 [単語・表現]

多忙続きで久しぶりの更新となる。「秘密に」「内緒で」を表す英語は、これまでもこのブログでいくつか取り上げたことがあるが、先日読んだ記事に on the sly という表現があったのでメモしておきたい。

英誌「エコノミスト」の最近の記事で目にしたもので、AIによって、本人と見分けがつかないほどそっくりの自然な声と発話を作成できる(to clone voices, voice cloning)ようになったことについて書いたものだ。

- Another industry that will have to come to grips with the rise of clones is journalism. On-the-sly recordings—such as Donald Trump’s boast of grabbing women by a certain private body part—have long been the stuff of blockbuster scoops. Now who will trust a story based on an audio clip?
("AI is making it possible to clone voices" The Economist, July 20 2023)

ここにある on-the-sly recording は「本人に知られないようにこっそりと録音すること」「隠し録り」を指していることになるだろう。

sly は「狡猾な」「ずるい」の意味で学習者が覚えるはずの単語で、sly as a fox というイディオムというか cliché もある。Online Etymology Dictionary を見ると、この単語自体は late 12 c. と古いものだが、

- On the sly "in secret" is recorded from 1812.
https://www.etymonline.com/word/sly

とあり、今回の言い回しができたのはそれほど古いものではないことになる。

余談だが、このブログでずっと昔に取り上げたことがある英和辞典の逸品「岩波英和辞典」(→こちら)で何の気なしに sly を引いたら、最初に出ていた訳語が

- こすい

だった。

これを見て、暑さでぼんやりしていた頭がちょっとばかり覚醒した。「こすい」は俗語あるいは方言ではないだろうか。そんな言葉が辞書に、しかも訳語の最初に出てきたので(二番目が「ずるい」)、何ともおもしろく、かつ不思議に思った。編者の田中菊雄先生、どうしてこの訳語を最初にもってきたのだろう。

そしてウェブを見てみると、「こすい」の都道府県別の使用率について書いた記事があった。
https://news.biglobe.ne.jp/trend/0122/jtn_190122_4070909384.html

アンケートに基づくものなのでどこまで信頼してよいかはわからないが、これによると、使用率が低い傾向にある北日本の中で比較的高めなのが北海道。そして田中菊雄氏の出身地を調べたら、北海道だった。だからどうしたと言われると返す言葉はなく、単なる偶然だろうが、やはりおもしろい。

今回 "sly" 「ずるい」「こすい」と何だか似たような音のある言葉が出てきたのも単なる偶然だが、最後に英語圏の辞書から on the sly の記述を抜き書きしておこう。

以下の定義を見ると、ただ単純に「人目につかない」というよりも、「こそこそ」感、田中先生にならって俗っぽい言葉を使えば、「せこい」感じ・「やばい」感じを伴っているというのは、sly を使った表現なればこそなのだろう。

- informal
secretly, especially when you are doing something that you should not do
They’d been seeing each other on the sly for months.
(LDOCE)

- To do something on the sly means to do it secretly, often because it is wrong or bad. [informal]
Was she meeting some guy on the sly?
Synonyms: secretly, privately, covertly, surreptitiously
(Collins COBUILD Advanced Learner’s Dictionary)

- Fig. secretly and deceptively.
She was stealing little bits of money on the sly.
Martin was having an affair with the maid on the sly.
(McGraw-Hill Dictionary of American Idioms and Phrasal Verbs)

「内緒で」を表す表現についての過去の記事:
hush-hush 「極秘の」
a fly on the wall 「誰にも気づかれずにこっそり見聞きしている」
「壁にとまったハエ」は適切な訳か? ~ fly on the wall #2
This conversation never took place. 「ここだけの話」「他言無用」
sub rosa (under the rose) 「秘密の」「こっそりと」
entre nous, inter nos 「ここだけの話」「内緒ですよ」

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TM

Tempus Fugit様。今回も面白い考察、ありがとうございました。on the slyは字句を見ただけでは見逃してしまいそうです(掲載記事は自分は不覚にも読んでおりませんでした)。この表現以上に、岩波英和につながったのが大変興味深かったです。確か高校生の頃、誰かが持っていた革装の品のよさそうな辞書くらいの印象しか持っておりませんでしたが、OEDからThe Professor and the Madmanまでの展開となると、なるほどなぁと感心することしきりであります。個性あふれる辞書も少なくなったということでしょうか。毎度の脱線コメントで恐縮です。
by TM (2023-08-07 09:56) 

tempus_fugit

TMさま、岩波英和のことをご存知の方は今やそう多くないのではと思いますので、うれしいコメントありがとうございました。ちょっと事情がありまして、自分のブログながらほったらかし状態になっており、お礼が遅れましてすみませんでした。

by tempus_fugit (2023-09-03 20:36) 

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